部活動が地域クラブへ?山梨県でも進む「部活動改革」について考える
2026/10/12
山梨県甲府市飯田にあるライト学習塾の教室長です。
中学生にとって、学校生活の大きな一部分を占めてきた「部活動」。
運動部で大会を目指して練習したり、文化部で作品を作ったり、同じ目標を持った仲間と一緒に活動したり。
勉強とは違った経験ができる場所として、部活動に思い出がある大人の方も多いのではないでしょうか。
しかし今、その「部活動」のあり方が大きく変わろうとしています。
それが、学校で行われてきた部活動を地域全体で支えていく「地域クラブ活動」への展開です。
今回は、山梨県でも進められている部活動改革について、すでに大きな改革を行った兵庫県神戸市の事例も見ながら考えてみたいと思います。
なぜ部活動を地域クラブへ?
そもそも、なぜ長年学校で行われてきた部活動を地域へ移していくのでしょうか。
大きな理由の一つが「少子化」です。
生徒数が減少すれば、一つの学校で確保できる部員数も少なくなります。
「やりたい部活動が自分の学校にない」
「部員が足りず、大会に出場できない」
「今まであった部活動が廃部になった」
今後、このようなケースが増えていくことが予想されます。
もう一つの理由として、学校の先生の負担があります。
これまでの部活動は、学校の先生が顧問になることで成り立ってきました。
しかし、顧問になった先生が必ずしもその競技や活動の経験者とは限りません。
また、放課後だけでなく休日の練習、大会への引率などにも多くの時間が必要になります。
山梨県は部活動改革の目的として、少子化の中でも子どもたちが継続的にスポーツや文化芸術活動に親しめる機会を確保し、学校単位ではなく地域全体で支える環境へ変えていくことを掲げています。
同時に、こうした改革は学校の働き方改革を進め、学校教育の質の向上にもつながるとしています。
山梨県の部活動はどう変わっていく?
山梨県では2026年3月に「やまなし部活動改革及びやまなし地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」が策定されています。
2026年度から2031年度までの6年間を「改革実行期間」として、まず公立中学校の休日の部活動から地域クラブ活動への展開を進めていく方針です。
つまり、
「ある日突然、山梨県の中学校からすべての部活動がなくなる」
というわけではありません。
それぞれの市町村や地域の状況に合わせながら、学校単位で行ってきた活動を地域で支える形へ段階的に変えていくことになります。
山梨県では、これまで学校部活動では十分に支えられなくなっている中学生のスポーツ・文化芸術活動を学校単位から地域単位へ変えることで、将来にわたって活動できる環境を整備する方針を示しています。
一足先に大きく変わった神戸市
全国では、すでに大きな改革に踏み切った自治体もあります。
その一つが兵庫県神戸市です。
神戸市では2026年8月末をもって従来の中学校部活動を終了し、9月から「KOBE◆KATSU(コベカツ)」という地域クラブ活動を開始しました。
一部の種目では終了時期について柔軟な対応が取られますが、休日だけではなく平日を含めて学校部活動から地域クラブ活動へ大きく転換した事例です。
コベカツの大きな特徴は、
「学校にある部活動から選ぶ」
のではなく、
「地域にある活動の中から自分のやりたいことを選ぶ」
という考え方です。
そして実際のクラブを見てみると、「地域クラブ」といっても、その形は実にさまざまです。
プロから地域の人まで?さまざまな地域クラブ
神戸市では、学校外の活動団体の指導者、地域団体、保護者の有志、部活動のOB・OG、教員など、さまざまな人が地域クラブに関わることが想定されています。
競技力や技術の向上を目指すクラブでは、競技経験を持つ指導者による専門的な指導を受けることもできます。
中には、スポーツチームや従来からクラブ活動を運営してきた団体などが関わっているものもあります。
一方で、必ずしも競技力向上を第一の目的としたクラブばかりではありません。
地域の人たちと一緒にスポーツや文化活動そのものを楽しむことを目的としたクラブもあります。
実際のコベカツの登録クラブを見ると、週に何日も活動するクラブもあれば、活動日数の少ないクラブもあり、指導者や活動方針、料金もそれぞれ異なります。
つまり、
「地域クラブになれば必ずプロや専門家が教えてくれる」
というわけではありません。
その一方で、これまで学校という枠の中では出会えなかった専門的な指導者から教わる機会が生まれる可能性もあります。
ここは、地域クラブ化の面白いところではないでしょうか。
子どもから見たメリットとデメリット
子どもたちにとって大きなメリットになると考えられるのが「選択肢」です。
これまでは、
「バドミントンをやりたいけれど、自分の中学校にはバドミントン部がない」
のであれば、別の部活動を選ぶか、学校外のクラブを自分で探す必要がありました。
地域クラブであれば、学校の枠を越えて活動を選べる可能性があります。
一つの学校だけでは人数が集まらなくなった競技でも、複数の学校から生徒が集まれば活動を続けられるかもしれません。
さらに、専門的な指導を受けたい子どもと、
「大会で勝つことより友達と楽しく活動したい」
という子どもが、それぞれ自分に合った活動を選べるようになる可能性もあります。
一方で、これまでの学校部活動だからこそ得られたものもあります。
同じ学校の友達と放課後そのまま活動する。
先輩・後輩との関係を作る。
大会では自分たちの中学校の名前を背負って戦う。
こうした「学校の仲間と一緒に活動する」という部活動ならではの感覚は、地域クラブ化によって変わっていくかもしれません。
地域クラブになったら大会には出られない?
地域クラブへの移行を聞いて、
「それでは、中学校の大会には出られなくなるの?」
と疑問に思う人もいるかもしれません。
しかし、地域クラブになったからといって、大会を目指す道そのものがなくなるわけではありません。
神戸市のコベカツでは、競技によって定められた参加資格などを満たし、兵庫県中学校体育連盟への参加申請など必要な手続きを行うことで、中学校体育連盟が関係する大会への出場が可能です。
そこから兵庫県大会、近畿大会、さらに全国中学校体育大会へとつながる競技もあります。
つまり、
「学校の部活動でなければ、中体連の大会に出られない」
というわけではないのです。
文化活動についても同様に、それぞれの連盟などへの登録によってコンクール等への参加が可能な場合があります。
ただし、ここでもこれまでの部活動とは大きく変わる部分があります。
従来は、
「○○中学校野球部」
「△△中学校バスケットボール部」
というように、基本的には学校単位で大会に参加していました。
地域クラブでは、複数の学校に通う子どもたちが同じクラブで活動することもあります。
これまでの、
「自分たちの学校の代表として大会を目指す」
という形から、
「自分たちの地域クラブで大会を目指す」
という形も増えていくことになります。
地域クラブへの移行は、活動する場所や指導者が変わるだけではなく、中学生の大会や学校への帰属意識にも変化をもたらしていくのかもしれません。
先生から見るとどうだろう?
先生にとって大きいのは、やはり負担の変化でしょう。
放課後の練習だけでなく、休日の活動、大会への引率、練習試合の調整など、部活動には多くの時間が必要でした。
地域クラブ化によってこの負担が軽減されれば、授業準備や教材研究、生徒への学習支援などに使える時間が増える可能性があります。
また、
「一度も経験したことがない競技の顧問になった」
という問題も減っていくでしょう。
しかし、すべての先生が部活動を「負担だからやりたくない」と考えているわけではありません。
自分が経験してきた競技を教えたい。
子どもたちと一緒に大会を目指したい。
そう考える先生も当然いるでしょう。
地域クラブでは、教員が指導者として関わることも可能です。
これからは、
「先生だから部活動を指導する」のではなく、「指導したい人が適切な形で関わる」
という方向へ変わっていくのかもしれません。
保護者から見ると「お金」の問題も
地域クラブになると、保護者にとって気になる問題の一つが費用です。
学校部活動とは異なり、地域クラブでは指導者への報酬、保険料、施設利用料、道具代など、活動を運営するためのお金が必要になります。
そのため、月謝や会費が必要になるクラブも多くあります。
実際にコベカツに登録されているクラブを見ても、料金は一律ではありません。
活動頻度や指導内容、運営主体などによって料金にはかなり違いがあります。
これは、それぞれ特色のある活動を選択できるという地域クラブの自由度の高さでもあります。
一方で、
「やりたい活動があっても、家庭の経済的な事情によって選べない」
という問題につながる可能性もあります。
神戸市では2026年度、保護者負担を軽減するための会費支援を行うほか、神戸市立中学生のスポーツ安全保険料についても公費で負担する取り組みを行っています。
地域クラブ化を進めるのであれば、
「活動費を誰が負担するのか」
という問題も同時に考えていかなければならないでしょう。
そして、山梨で特に気になる「送迎」の問題
もう一つ気になるのが、活動場所への移動です。
学校部活動であれば、授業が終わればそのまま学校で活動できます。
しかし地域クラブでは、自分の学校以外の学校やスポーツ施設などへ移動することも考えられます。
「学校の枠を越えて好きな活動を選べる」
というのは大きなメリットです。
しかし、
「選べること」と「実際にそこへ通えること」は同じではありません。
この問題は、大都市である神戸市でも発生しています。
神戸市では、活動団体が少なく日常的な移動が難しい地域を対象として、他校などへの移動に「タクシー相乗りマッチングサービス」を利用する実証事業も行っています。
移動手段を確保できれば、子どもの選択肢は広がります。
しかし、ここでも新たな問題が出てきます。
その交通費を誰が負担するのでしょうか。
保護者なのか。
クラブなのか。
それとも自治体なのか。
特に自家用車での移動が中心となる山梨県では、地域クラブ化を考える上で「送迎」は大きな課題の一つになるのではないでしょうか。
「選択肢がある」だけでは十分ではない
地域クラブ化によって、これまで学校にはなかった活動を選べるようになる。
専門的な指導を受けられる。
少人数になった競技でも、学校の枠を越えて仲間を集められる。
先生の負担も軽減できる。
そして条件を満たした地域クラブであれば、中体連などの大会を目指すこともできる。
こうしたメリットがあります。
その一方で、月謝が必要になる。
活動場所まで移動しなければならない。
学校の仲間と活動するという従来の部活動の姿が変わる。
指導者や活動内容もクラブによって大きく異なる。
こうした課題もあります。
そして、ここで一番考えておきたいのは、
「選択肢が存在すること」と「すべての子どもがその選択肢を選べること」は違う
ということです。
どれほど魅力的なクラブがあっても、月謝を払えなければ参加できない。
活動場所まで通えなければ参加できない。
保護者が毎回送迎しなければならないのであれば、家庭の状況によって参加できる活動が変わってしまう可能性があります。
だからこそ、地域クラブを増やすことだけではなく、
「費用をどうするのか」
「移動手段をどうするのか」
「指導者をどう確保するのか」
「大会への参加をどう支えていくのか」
まで含めて仕組みを作っていく必要があります。
山梨県の子どもたちの活動はこれからどう変わる?
地域クラブへの移行は、
「学校の部活動をなくして、外部の人に任せる」
というだけの改革ではありません。
これまで学校と先生を中心として支えてきた子どもたちのスポーツ・文化芸術活動を、
「これから誰が、どこで、どのように支えていくのか」
という仕組みそのものを作り直す改革です。
子どもにとっては、やりたいことを選べる可能性が広がる。
先生にとっては、部活動との関わり方を選べる可能性が広がる。
一方で保護者には、費用や送迎など新たな負担が生じる可能性もあります。
そして、これまで学校単位で行われてきた大会や、学校の仲間と一緒に活動するという部活動文化そのものも、少しずつ形を変えていくことになるでしょう。
都市部と地方では、必要になる仕組みも違います。
神戸市で始まったコベカツがこれからどのような成果や課題を見せるのかは、山梨県でこれから地域クラブ活動を進めていく上でも参考になるのではないでしょうか。
現在の中学生だけではありません。
今の小学生が中学生になる頃には、
「中学生になったら学校の部活動に入る」
という、これまで当たり前だった学校生活そのものが、大きく変わっているのかもしれません。
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